素敵なこの人

姫路市立あかつき中学校 校長

山下 雅道(やました まさみち)さん

学びたい気持ちに
教員とともに全力で応える

さまざまな理由で義務教育を修了していない人や中学校へ通えなかった人が、学びの機会が得られる場、夜間中学校。教育機会確保法(平成28年成立)によって全国各地で設置が進められ、近畿圏内にも22の学び舎があります。令和5年に開校した「姫路市立あかつき中学校」の校長を務めるのは山下雅道さん。15名の教員と一緒に、生徒24名の「学びたい思い」に全力で応えています。

山下 雅道さん

「あかつき中学校」にどんな人が通学していますか?

10代の生徒さんが大半で、最高齢で80代。日本語指導もあるので、外国人の生徒さんもよく来ています。当校は最長で6年通えて、現在4年目の生徒さんもいます。

開校式で挨拶をする山下校長。「新しい夜明け」を意味する校名は公募から命名された

「学ぶ喜び」が教育目標ですね

当校を必要とする生徒さんに「学ぶ喜び」を実感してもらい、いずれ社会的に自立してくれたらという思いがあります。既に社会的に自立されている高齢の生徒さんも、昨日より今日をより豊かに生きやすくなることが、我々が目指しているところです。

教員の先生も、この学校を志願されるとか

全員が当校を志望してくれた先生方です。毎日、授業前に今日の全教科全時間についてミーティングをし、生徒さんが帰った午後9時頃からも全コマの振り返りをしています。生徒さんの様子を語り合ったり、授業でうまくいかなかったことは、教室の後ろにいるサポートの先生の話も合わせて振り返りながら授業進度やサポートの入り方も調整する。それを毎日繰り返しています。先生方がこれをずっとやり続けていることが生徒理解に繋がっており、それが当校の強みといえます。

授業は3学年を2組に分けて実施。5教科は学習進度に合わせてコース分けし、一斉授業の形をとりながら、サポート教員が数名入り、一人ひとりの理解度を確認。一人として取り残さない授業を展開している

ネパール、パキスタンなど、東南アジアや南アジア出身の外国人生徒も多い

生徒さんには理想的な環境かもしれないですね

一方でさまざまな理由から、家で過ごしている人もいる。その人たちがなんとか外に出るエネルギーを得て、うちを目指してくれたら、という思いがあります。不安なく学校生活が送れるように、入学までに何度か面談をしていますし、入学して学習が習慣化し、高校進学・就職などの次のステップに進める心身の状態になれば、1年でも卒業することができます。

生徒さんのペースに合わせた学習内容なんですね

当校は「しっかり待ってやること」ができる学校です。授業も生活全般も一人ひとりのペースに合わせることができるので、生徒さんの理解度合いや、つまずきをキャッチしやすく、一緒に考えられる時間も作りやすい。だから生徒さんが辞めずに通ってきてくれてるのかなと。夜間中学校の中でも、当校は出席率がかなり高い学校なんです。

開校から4年ですごい実績ですね。山下校長の教員時代もお聞きしたいです

もともと中学校の社会科教諭で、30歳頃から生徒指導として学校の枠から飛び出そうとする生徒さんとやり取りをしてきました。いろんな課題を抱えている子と関わるのは先生としての醍醐味の一つでもありますし、いい格好を言うと「なんとかしてやりたいな」と。彼らと一緒に努力したい、社会で通用するようになってもらいたいっていう思いでおりました。

教員を目指した経緯もお聞かせください

あのー、僕も先生にたくさん迷惑をかけた方で。生意気な生徒でした。「こんなやつ知らんわ」と思われて当然なのに、それでもこんなに一生懸命関わってくれようとしてくれる先生って一体なんなんやろう? それには自分が(教員に)なるしかないと......。

今のお姿からは想像できないですね

教員としてかかわった生徒さんが、卒業後に声をかけてくれて、当時知らなかった生活背景を教えてくれることもあります。そのさなかにいる時は、生徒さんも言語化できないんですよね。だから今も、生徒さんに「なんで学校行けてなかったの?」とは聞かないです。それよりも、今の生徒さんを見て対応をすることに集中したいんです。

教育現場で40年以上いま感じられることは?

子どもたちにとって優しい社会とは、どんな社会なのかな、と。長い時間子どもを預かれる施設も安全を確保するという意味では大事ですが、子どもが求めてるのは「居心地のいい場所」だと思うんです。それがないから、デジタル空間に居場所を求めるのかなと。人間のことは、できれば人間で受け止めたいですよね。私自身どんな立場になっても、いつまでも子どもたちをサポートする役割を果たしていきたいと思っています。

■ 取材を終えて

取材に訪れたのは、夏季休業中の登校日。仕事帰りの生徒たちが夕焼けに染まる校舎に次々と登校してきました。ちらりと覗いたノートにぎっしり埋まった文字から、学ぶ嬉しさがほとばしっています。「一人ひとりのペースを意識し、できるだけやさしい言葉を使って、丁寧に授業を進めることを教員全員が考えています」と語る山下校長。学びたいけど一歩踏み出せない、そんな人たちに、この学校の存在が届いて欲しいと願っています。

■ 問い合わせ

姫路市立あかつき中学校
姫路市市之郷町2-34
079-282-2118

■ プロフィール

1964年、兵庫県姫路市生まれ。大学卒業後、姫路市の中学校において社会科教諭や生徒指導を担当。姫路教育委員会を経て、2020年開校の姫路市立豊富小中学校の校長に就任、2023年のあかつき中学校開校時より現職。最近の趣味は、昔読んだ本を再読し、当時との解釈の違いを楽しむこと。


姫路市立東小学校に併設された校舎。夏季休業中の登校日にも暑い中生徒たちが通っていた