素敵なこの人

ブドウ農家 ワイン醸造家 田中 源道さん

50歳でブドウ農家に転身ワイナリー開設を目指す

赤穂郡上郡(かみごおり)町

兵庫県南西部に位置し、西部は岡山県備前市に隣接している赤穂郡上郡(かみごおり)町。山々に囲まれ、中央部には清流・千種川が流れる自然豊かな環境です。
ここでブドウ農園を営む田中源道さんは50歳で会社員を辞め、農家へと転身。自ら育てたブドウを使ったワイン造りも手がけています。過疎化が進む地域でブドウ作りを継承し、新たな夢に向かう田中さんにその思いを聞いてきました。

ブドウ農家になられたきっかけは?

祖父の実家が岡山のブドウ農家で、子どもの頃に行ったことがありずっと憧れていました。漠然と「定年退職したらブドウ農家になりたいな」と考えていたのですが、体力のあるうちに始めておかなくてはと思い立ち、50歳を機に会社員を辞めて実行に移しました。

上郡町を選ばれた理由は?

全国のブドウ農園を見て回り、岡山県に農園と住居を決め、話を進めていた頃でした。知人を通じて私の話を耳にされた上郡町役場の方から「見るだけでも良いから、ぜひ一度来てほしい」と何度も熱心に誘われ、断るつもりで訪れました。案内された細野地区は谷地形で、白旗山麓の高台には段々畑が。山の湧き水が流れ込み、岩石の地層で水はけが良く立地は最高。集落の突き当たりで、無農薬栽培にも適しているなど良い条件がそろっていました。夕暮れ時のなんとも美しい風景にも心をわしづかみにされ、この場所に決めたんです。

「しらはた農園moto」風景
昼間は千種川からの暖かい空気が昇り、夜は山頂から冷気が吹き下ろす。この寒暖差がブドウ栽培に最適


「しらはた農園moto」農園内
「しらはた農園moto」という名前は細野地区の史跡「白旗城跡」と田中さんの名前から名付けた


ブドウ作りはどのように覚えられたのでしょう?

昭和30年代、細野地区には15世帯ほどのブドウ農家があったらしいのですが、高齢化でどんどん減っていったそうです。私が継承した畑のオーナーさんが、この地区最後のブドウ農家でした。そこで最初の1年はオーナーさんの元で学び、2019年から本格的に栽培を始めました。近隣には引退された農家さんも多く、袋掛けや収穫など手数の要る作業の時には手伝いに来てくださるので、とても助かっています。

どんなブドウを育てているのですか?

皮ごと食べられるシャインマスカットやピオーネをはじめ、約20品種です。中でも細野地区で作るマスカット・ベリーAは他の産地の物より甘みが強くてコクがあります。地域の人からも「細野のベリーAは残してほしい」という声が多く寄せられていました。ただ、小粒で実が房から離れやすく、手間が掛かるものの販売価格はピオーネの半値程度。せっかくのブドウを生かす方法はないかと考え、ベリーAでワインを造ってブランド化できないかと思いついたんです。

ワイン造りはどこで行っているのですか?

愛媛県今治市の大三島にあるワイナリーです。自分が大切に育てたブドウがワインになるまで見届けたいという思いから、酒販の免許を取得して醸造にも携わっています。秋に収穫したブドウを持ち込み、車中泊しながら仕込みをするんです。昨年は赤ワインやスパークリングワインを醸造し、店舗やオンラインショップで販売しました。

ワインの仕込みを行う田中さん
愛媛県の醸造所でワインの仕込みを行う田中さん
2019年に姫路市内のワインバーで開催した試飲会
2019年に姫路市内のワインバーで開催した試飲会ワイン通にも好評だったそう

ワインはどんな味わいですか?

ブドウに付いている自然の酵母で発酵させるので、ブドウをそのまま食べているようなフルーティーでチャーミングな味です。上郡町近郊のレストランで提供されていて、ワインに合うメニューを考案してくださっています。私自身、ワインの小難しい知識はあまり頭に入れないようにし、ブドウの出来を見て自分の感覚で美味しいと思えるワインを造っています。

今年の4月、上郡町は「ワイン特区」として国に認定されたとか

特区になったことで、ワイン造りがしやすい環境になりました。果実酒などの製造がさかんになることで移住者や就農者も増えて町の活性化にもつながります。私の農園にもこの春から農業や醸造を学んだ3人の若者が来てくれました。体力、気力はもちろん、専門知識のある若い世代が加わって頼もしい限りです

今後の展望はありますか?

上郡にワイナリーを開きたいんです。ワイン樽をドンと置いて、気取らずに誰もができたてのワインを楽しめる場所を作ろうと構想を練っています。やりたいことはたくさんありますが、上郡のブドウを多くの方に知っていただけるよう、まずはひたむきに美味しいブドウを作ることが第一ですね。

■ 取材を終えて

取材に訪れたのは暑さが厳しい7月末。真夏の太陽が照りつける中でも圃場(ほじょう)近くに流れる沢沿いはひんやりと涼しく、水の清らかさを実感しました。この場所でワイナリーを開きたいという田中さん。オーストリアの「ホイリゲ」と呼ばれるワイン酒場に着想を得ているそうで、農園を眺めながらワインの新酒を味わうことができるとか。想像するだけでも楽しそうなワイナリーの開設、今から心待ちにしています!

■ プロフィール

姫路市出身。27年の会社員生活を経て2019年より兵庫県上郡町にて就農。同町細野地区へ移住し、引退する農家から畑を引き継ぐ。現在は1ヘクタールの農地で約20品種のブドウを育てている。秋には収穫したブドウを持って愛媛県のワイナリーに出向き、ワインの仕込みを行い販売している。

■ 連絡先

しらはた農園moto
田中さんが営むブドウ園。8~9月にかけてはブドウが直売されるほか、2月初旬頃から同園のブドウを使ったワインやジュースも販売予定。オンラインショップでも購入可。
兵庫県赤穂郡上郡町細野5-1
TEL/0791-55-9508
FAX/0791-56-8007
HP/https://moto-farm.com/