素敵なこの人

姫路市立琴丘高等学校 教員 松本 真吾さん

姫路市立琴丘高等学校 教員 松本 真吾さん

やったらできる!生徒と叶えた
前代未聞の修学旅行と、その後

2022年10月。修学旅行先の沖縄で行った130件分の取材記事を1冊にまとめた『姫路市立琴丘高校のおきなわレポート』が全国発売されました。取材交渉、インタビュー・撮影、執筆まで高校生だけで敢行。それを、知識もコネもゼロの状態から企画・出版の陣頭指揮を執ったのが、琴丘高校の学年主任(当時)、松本真吾先生です。出版から1年経た今も、姫路と沖縄につなぐ新しい縁が広がっています。

姫路市立琴丘高校普通科75回生、国際文化科18回生が取材・執筆した『姫路市立琴丘高校のおきなわレポート130』。出版費用をクラウドファウンディングで募ったところ、卒業生やOB会のほか、東京や青森、岩手からも協力者が現れ、目標金額を上回る130万円以上が集まった。

生徒たちと作った本が全国発売されて1年。反響はいかがですか?

いろんなところから反響が届きました。取材した沖縄からも「地元の人でも知らなかった情報がたくさん詰まっている」という声をいただいています。その中で、本を読んで感激したという沖縄県物産公社の方から「この本に登場する方を集めて物産展を企画したい」と、連絡がありました。

その物産展が、先日本当に沖縄で行われたそうですね。

『HELLO!おきなわ 修学旅行先で出会った、おきなわのヒトとモノ』という物産展です。開催された10日間のうち、修学旅行で訪れた2日間、生徒たちも販売やトークイベントの運営に参加しました。物産展運営は、本を作った学年の1年後輩の新2年生が受け継ぎ、夏前から事業者さんとオンライン会議を重ねて、沖縄に向かいました。

オンライン会議で打ち合わせを重ねた生徒たちと沖縄の事業者の方々。物産展で初めて顔を合わせて記念写真


そもそも「生徒が取材交渉し、本にして出版する」という発想は、どこから?

彼らは、コロナ禍で6月まで学校に行けないという最悪の状態から高校生活が始まった学年。この子達が達成感を感じられることを経験させたい!と思って、生徒たちが姫路の地場産業に携わる職人さんなどに電話で取材交渉し、作成したレポートを姫路駅の地下街に2カ月間掲示する、という探究学習を行ったんです。みなさん取材を快く受けていただいただけでなく、レポートを掲示すると、大変喜んでくれました。1年生だった彼らにとって、これはとても価値のある経験だなと思ったので、沖縄の修学旅行でも取材記事をまとめようというプランを、この頃僕の中で決めていました。

コミュニティFMなどで取材を行う生徒たちの様子(当時)


「いい文章をピックアップして本にして、あとは学校でプリントアウトして沖縄に送りますと言ったら、浦谷編集長から『いや、やるなら全部の班を載せましょう』と。正直(ハードル高すぎるやろ)と思いました。」と、出版が決まった時のことを振り返る

彼らが2年生に進級する頃には出版プランがあったと

琴丘高校のことを知らない沖縄の人に電話するのは、子どもたちにとって非常にハードルが高いことです。僕自身のハードルも上げようと、出版の知識ゼロの状態で「絶対出版させる!」と宣言しました。生徒が取材交渉を始め、7割くらいの班の取材先が決まった頃に、姫路で出版社を経営されている『金木犀舎』の浦谷さおりさんに会いに行きました。

自分たちの本を出版したことは、生徒たちにも大きな自信になったのでは

中正佳秀校長:この学年の国公立大学の合格者は、当校で過去最高の人数になりました。しかも、後期入試でも2名が合格。2月末まで頑張り続けるのは精神的にも大変なことですが、「がんばったら成果が出る感覚」を、この経験を通じて得たのではと思います。

出版というゴールに、『物産展』という思わぬ続きができたんですね

新2年生の中には「なんで自分たちが!?」と思った子もいたでしょうが、そういう子がいることも承知でスタートしました。5月終わりには20数店舗の出店と7組のトークイベントの出演が決まったので、せっかくだから沖縄で姫路をPRできないかなと思って、姫路の地場産業や老舗店の方々にも出店を交渉しました。沖縄では、姫路の皆さんに代わって生徒たちが商品を販売するので、商品について取材をしたり、物産展で流すPR動画を撮影したりするところから始まりました。

先輩の思いをつなぐモチベーションはどのように育っていったのですか?

物産展に参加される事業者さんが、生徒たちに本気で接してくれたのは大きかったと思います。事業者さんとオンライン会議をする中で、「そんなことでできると思うか!?」「今日の会議は100点満点中5点だね」と言われている生徒もいました。そうした経験を重ねて、お店のPOPを制作したり、新しくオリジナル作品を作ってもらったりする交渉もできるほど生徒たちもたくましくなっていった感じです。準備からイベント後のレポート作成までの様子はTV局が追ってくれて、情報番組で取り上げていただきました。

出版後、取材に応じてくれた沖縄の事業者からたくさんのお礼の手紙が届いた。お菓子店主からはお菓子が、コーヒー店店主からはコーヒーといった自家製品や、沖縄の藍染、この取り組みが掲載された沖縄の新聞なども同封されていた


今後のプランも既にあるのでは?

物産展を運営した学年が卒業する次の年の入学生が、琴丘高校最後の生徒になります(※琴丘高校は2026年度で統廃合が決まっています)から、この子たちにもいい経験をさせてやりたい。できれば、沖縄の皆さんを姫路に呼んで物産展をしたいですね。生徒たちの家にホームステイしてもらって、彼らが2年生になったら、今度は「沖縄の文化に触れる」というテーマで沖縄の方々のところにホームステイできれば…。その頃には僕も退任しているので、この夢を手紙に書いて事業者さんに送っています。もう、次の種は蒔いています(笑)。

「退職してから、沖縄のみなさんに会いに行こうと思っていたので、こんなに早くチャンスが巡ってくると思わなかった」と物産展の様子を嬉しそうに語る松本先生。会場がある浦添市長、沖縄市や浦添市教育委員会、沖縄県物産公社の社長らも来場した


■ 取材を終えて

「生徒たちには『やったらできる』と繰り返してきた」と言う松本先生。自分にもハードルを課しつつ、前例にない修学旅行と本の出版を実現してきました。その根底にあったのは「生徒たちにいい経験をさせてやりたい」という一心。その熱は多くの人の心を動かし、新たなつながりを育みました。『やったらできる!』を体現してきた松本先生が沖縄に蒔いてきた次の夢も、きっと叶えられることを願っています。

■ プロフィール

1961年、神戸市出身。兵庫県立星稜高校卒業後、高知大学教育学部を経て高校教員に。専門科目は体育。2011年より姫路市立琴丘高校に赴任し、初年度から学年主任として、地元や学校の歴史を生徒たち自身が探っていく授業を行う。沖縄への修学旅行で行った探究学習を1冊の本として出版し、話題に。座右の銘は「一期一会」

■ 連絡先

姫路市立琴丘高等学校
兵庫県姫路市今宿668番地
TEL:079-292-4925