のびやかにハレの日の空に
旗めく手仕事の一枚
神社の幟や社旗や校旗・船下ろし(小型漁船などの進水式)にたくさん飾られる大漁旗......。一眼見ただけで晴れやかな気持ちになる旗やのぼり。明石市の商店街「魚の棚」アーケードの大漁旗をはじめ、西播地域の神社幟(のぼり)などを手がける黒川さんは、かつて分業されていた前工程の技術まで習得し、今や全国的にも希少な染め職人として活躍されています。

今はどんな作業をされているんですか?
「糊置き」といって、下絵に沿って、色を染めない部分に「防染糊」を絞っていました。最終的には布地を生かした白いラインになりますが、糊がしっかり乾いていないと横の色が滲んでしまう。筒金(ツツガネ)という道具で糊を押し絞っていくこの作業ができる職人は、全国的にも少なくなっているんです。

餅粉で作った糊を、筒金から絞り出して下絵の線に沿って引いていく「糊置き」の作業。数ある工程の中でもとくに気を遣う工程
下描きも黒川さんが手描きされているとか
描いた下絵を実寸大で出力して、布に写していきます。企業のロゴマークや家紋などはデータ化したものを出力して使っていますが、その他の文字や絵はフリーハンドで描いています。
魚の棚商店街名物「大漁旗」の数々も黒川さん作?
ほとんどそうですね。昔は漁師さんから借りた旗を飾っていたそうですが、今はうちで明石市内の企業や店舗から募集したものを毎年7、8枚染めさせていただいています。ほかにも学校の校旗とか神社の幟や幕、お店ののれんも染めています。そもそも染めものは昔は分業制で、糊置きや下絵も専門店の外注に出していたのですが、震災を機に廃業されてしまって......。

大小さまざまな刷毛を使って色を置いていく。刷毛を作る職人も高齢化などで減少し、刷毛自体が手に入りにくくなっている

船下ろし(小型漁船などの進水式)に贈られる大漁旗。寄贈者は異なるが、全て黒川さん作。一枚一枚に目がいくように見せ場を描き分ける
外注していた工程の技術までどうやって?
独学に近いです。堺市にある染工場の社長が、震災の時に駆けつけてくれて「仕事ができないなら、うちに来い」と言ってくださり、1年間染めの勉強をさせてもらいました。その後明石に帰ってきたら、糊置き屋さんの廃業と、親父が大病を発症したのが重なり、突然僕一人になってしまった。「どうしよ」と思ったけど、やらんとしゃあない。あの頃、無心でやっていったと思いますね。地震と親父の病気を経て、今の自分があるような気がします。自分で継ぐといいながら、それまでほんとグータラでしたから(笑)。こうやって話すまでなかなか思い出すことはなかったから、必死やったんちゃいますか。
黒川さんの持ち味は
グラデーションですかね。大漁旗の背景はベタ塗りでもいいところ、面白半分でやり出したのがきっかけで、それから必ずいれるようにしています。水を含ませた刷毛に、濃い目の色をとって、指を使ってぼかしを入れていく。すごい時間はかかりますが。
とくにグラデーションをいれてと注文されませんが、いれるようにしてます。やりだすと手をかけたくなるんです。あと、タコとかタイとかいろんな魚も描き入れるところですかね。

一般の方もオーダーできますか?
できますよ。ご友人の結婚式に贈る大漁旗のオーダーも増えました。先日は、ウエルカムボードの代わりにされる、夫婦の似顔絵が入った大漁旗を染めました。披露宴会場のお店に飾るために、新郎様の家紋入りを発注された方もいます。ほとんどが、昔なじみのお客さんからのご紹介ですね。

とくに印象に残っている染め物は?
2022年の『全国豊かな海づくり大会兵庫大会』に天皇皇后両陛下が式典に出席される際に、明石市から発注された大漁旗です。タレントのさかなクンが描いた絵を染めてほしいという依頼でしたが、それがまぁ大変で!さかなクンの絵ってすごく細かいから、朝から晩まで染め続けてもおわらない。でもできないのは悔しいし、忠実に再現したい。そう思いながらも2枚完成させましたが、あれはゾッとしました。
これから染めてみたいものは?
自分の限界に挑戦できるような、細かい絵を染めたい(笑)。結局そうなっちゃいますね。今の自分の実力ってどうなんだろう、どれだけできるんだろう、自己満足の世界ですけどそればっかり考えます。難しいオーダーがくると「うわーっ」て思いながら、ついついもっと難しいデザインを提案したりして。悪いクセですね(笑)。
■ 取材を終えて
家業を継ぐ際、父から反対された黒川さん。震災やお父様の大病という危機的な状況の中で幅広い力を蓄え、今や関西でも数少ない染め職人として活躍されています。昔ながらの伝統技法を守りながら、ロゴなどの型作りはデータ作成する柔軟さ、「細かい絵に苦しめられたけど、それでも挑戦し続けたい」という職人魂にもグッときました。どんな苦境も笑顔で語る黒川さんの作品を見れば、手仕事というだけでは語れない力強さや厚みが感じられるはずです。

■ プロフィール
1964年兵庫県明石市生まれ。大学卒業後は染料商社に入社し、配色(色の調合)業務に従事。長男誕生を機に、幼い頃から決めていた家業の「黒川染工場(1918年創業)」に入り、4代目を継承。染め職人でありながら、下絵から糊置き、色づくり、染めまで一人で手がける全国的にも珍しい存在。
■ 問い合わせ
黒川染工場
明石市日富美町6-26
TEL:078-912-3963
HP:http://black3963.web.fc2.com

明石市の「魚の棚商店街」のアーケードを華やかにする大漁旗。そのほとんどが黒川さん作