小さくても心揺さぶる一発を目指して
夜空に打ち上げる6秒の芸術
世界に誇るクオリティで知られる日本の花火。夜空に大輪の花を開かせる、わずか6秒ほどの芸術のために、全国の花火職人たちが独自の技術を磨き合い、その進化は止まることを知りません。兵庫県で唯一、花火製造を手掛ける三光煙火製造所では毎年35000玉弱の花火を製造。1発とも同じものが見られない、儚くも美しい芸術品が作られている、山間に広がる約2000坪の製造工場を訪ねました。
今はどんな作業を?(取材は5月初旬)
シーズンに向けて大詰めの時期ですね。花火玉は水に溶かした火薬を使ったり、糊を塗り重ねたりして作るので、各段階で天日干しが必要ですから、梅雨入りまでが勝負なんです。
忙しい時にありがとうございます。
こうした作業は毎年いつから始めるもの?
10月初旬から翌年分の作業にかかります。秋から冬は日照時間が短く気温も低いので、小さい2.5号玉(直径7cm)から作っていきます。今、私が作っているのは5号玉(直径15cm)。上空では直径180mくらいに広がります。
花火玉の中は、どうなっているんですか?
米の籾殻に火薬を何層もコーティングした「割火薬」と、実際に花火の色や形の部分を担う「星」。大きく分けてこの2種類を和紙製の椀に入れていき、最終的に二つの椀を合わせて一つの「玉」にします。玉の中に1ミリでも隙間が空いていたり、上下左右でずれたりしていると、上空で開いた時に何10mもの隙間ができたり、開いた時の円も不細工になります。玉に巻くクラフト紙も、花火を勢いよく開かせるか、ふわっとさせるかで、重ねる層の数を変えるんです。
非常に繊細な作業ですね。
そうですね、星や割火薬も何日もかけて作っています。これらはお団子状の火薬ではなくて、芯に火薬の層を作っては天日で乾かし、乾いたらまた上から火薬をまぶして乾かすという工程を繰り返したもの。一気に火薬をつけて太らせると、芯に湿気が残って火がつかない原因になるんです。業界ではこの工程を「育てる」と言っています。
二重構造の円が開く、伝統的な「芯物花火」を製造中。美しい円が開くように、隙間ができないように均一に「星」を仕込み、2つの椀をずれないように合わせる
「音楽花火」の演出も担当。曲と着火とのタイミングに合わせ、三木さんがプログラミングをカスタマイズ
花火大会の演出も手がけられていますね。
曲に合わせて花火が開く『音楽花火』を提案し、お客様の要望や指定曲に合わせたプログラムを組んでいます。約40分間の花火大会で、一本の映画を作るようにストーリー性を考えることに一番やりがいを感じます。告知ではどうしても「今年の花火は○○○○発!」って数を押されがちですが、ドカドカあがる5000発より「内容の濃い1000発」を目指しています。


コロナ禍での打ち上げ花火は勇気づけられました。
当時は従業員さんも別のアルバイトを始めましたし、僕もがむしゃらに営業活動をしました。そんな時に、全国一斉に花火を打ち上げる企画に参加したことで、地元の自治会やPTAから「地域の方を元気づけたい」と依頼が来るようになりました。生活には絶対必要ではないけど、それでも必要とされる花火の素晴らしさを改めて実感しました。先日も、ある学校のPTAさんからの依頼で、卒業生に将来へのメッセージを書いてもらったクラフト紙を玉に貼って打ち上げました。こういうふうに花火をより一層身近なものに思っていただきたいなと思っています。
三光さんの花火の特徴は?
兵庫県は、全国的にも打ち上げ花火に関する規制が厳しいので、「小さな玉でも、いかにお客様を喜ばせられるか」を追究し、小さくても見応えがある花火を表現しようとしています。理想は、サッと強く開く花火。着々と理想に近づいてはいるんですが、ある段階でなかなかステップアップできない感じが続いています。三光オリジナル玉も年々改良を重ね、モデルチェンジしています。新作も、毎年1種類は出すようにしています。花火屋の間では『看板玉』といいますが、「これは三光の花火だ!」というのを目指したいですね。
打ち上げる時の筒。玉の大きさや演出に合わせて選ぶ。筒は新潟県燕市で製造
理想の花火のために、どんなところが難しい?
今もずっと「星」の研究、特に「星を大きく、丸く開かせる」ための研究を続けています。まだ完成ではないんですが、理想とする勢い、開き方、大きさになる割火薬の配合比率はいいところまできています。もちろん技術だけでなく、従業員が同じ目標を持つ。そこが共有できてないといい花火はできないですね。
「日乾場」で、星や割火薬を天日干しさせる。乾き具合は音で判断する
今後の目標は?
自分の実力を試すために、いずれは花火師の競技大会に出たいですね。秋田県大曲市で毎年行われる大会は、受賞歴がある花火師だけが出られる超名門。私が所属している煙火協会の青年部会のコンクールがあるので、まずそこから挑戦していきたいですね。
■ 取材を終えて
製造工場が広がっているのは、鳥たちの囁きが響き渡る山の裾野。そんなのどかな環境とは裏腹に、敷地内は衝撃や摩擦、金属音は一切厳禁。電気系統も一切なしという緊張感漂う中で、花火という儚くも美しい芸術は、一粒の火薬作り、一粒の玉作りから逆算されて作られていました。関西でも数人しか残っていない花火職人、三木さんの貴重な話を聞いて、今年の花火は、これまでとはひときわ違った感じ方ができそうです。
■ プロフィール
1985年、兵庫県姫路市出身。建築業などを経て、2013年より花火製造を行う家業に本格的に専念する。8名のスタッフと共に、花火製造のほか『ネスタリゾート神戸』や『姫路みなと祭 海上花火大会』をはじめ、関西各地で行われる花火大会の演出全般も担当。近年は、サプライズ花火に関する受注・問い合わせも多い。趣味はDJ、レコード収集(レゲエミュージック)など。
■ 連絡先
株式会社三光煙火製造所
兵庫県姫路市大津区天満1105-1
TEL:079-236-1512
https://www.sanko-enka.com
■ 三光煙火製造所の花火および演出が楽しめる花火大会
7/19(土)~9/28(日) 姫路セントラルパーク ※土日祝および8/12(火)〜15(金)のみ
7/26(土) 上郡納涼花火大会
8/2(土) 龍野納涼花火大会
8/15(金)・16(土) 丹波篠山デカンショ祭り
9/14(日) 姫路みなと祭 海上花火大会